自己紹介
私は那覇市出身(幼少の一時期、米国ボストン在住)です。地元(那覇)の小学校を卒業後、中高は鹿児島で、大学・大学院は東京で学びました。大学では高電圧工学の研究室で卒業研究に取り組み、大学院ではナノ・バイオ工学の分野に移り博士号を取得しました。学部から大学院に行くときには通常、テーマや分野を変えない方が何かと有利で早くキャリアを積みやすいのですが、この頃から私は外界志向だったのかもしれません。
大学院在学中にフランスのキュリー研究所に移ったのを皮切りに、その後約10年間は国内外の様々な研究機関で学術研究を行いました。その後は公的機関や民間企業で先端技術の幅広い意味での調査研究に携わっています。
このように科学技術を大きな軸として、複数の分野、日仏米の3か国、産官学の3つのセクターを渡り歩きました。このようなキャリアは日本国内では大変珍しく、最も多様な世界を経験した者の一人であると自負しています。
外界志向、志、チャレンジ精神
~私なりのマインド・実行してきたこと~
仲村巖チャレンジ基金が沖縄の若者に期待する3つのキーワード「外界志向」「志」「チャレンジ精神」について、これまでの経験を基に、私の考えを述べます。
「外界志向」
「外界」とは必ずしも外国とは限りません。外の文化圏、職業、コミュニティ、価値観を異にするところは「外界」です。そうした「外界」へ強い興味を持ち、積極的に関わり、理解を深め、自分が身を置く世界と異なる世界双方に資することを目指すこと。
「志」
目的に向かって走りながら方向を見定め常に高みを目指すように心を持つこと。
「チャレンジ精神」
上記を成すために、失敗や困難を恐れずに難題や新しいことに積極的に取り組むマインド。
<外界>で自分が活躍できる場所を探すときのアドバイス
「やりたいことが見つかれば、全世界を見渡して、それができる世界で一番良い環境に自ら行きなさい」※ 利根川進博士(ノーベル生医学賞受賞者)
「その世界の人たちと話をして楽しいか、もチャレンジする場所を選ぶ基準」※ フィリップ・シャープ博士 (ノーベル生医学賞受賞者)
自分の本能・気持ちに従って動きなさいということです。
若い方々にとって、今後のキャリアや人生を考える際の参考になればと思っております。
キュリー研究所での体験
おそらく日本人では唯一無二と言える、私の人生で異なる世界=外界に飛び込んだ最も大きなチャレンジは、フランスのキュリー研究所に入所し、工学がバックグラウンドの私が一分子生物学に一石を投じる成果を挙げたことです。
キュリー研究所は、キュリー夫人が設立しキュリー一家が実際に研究を行っていた研究所です。選んだ理由は、「どこに行ったらやりたいことができるか」と考えたとき、そこが「一流のメンバーとやりたい研究ができる」場所だったからです。もうひとつの理由は、「パリに住める」。仕事以外のことも人生には大事です。私にとって芸術は人生の中で大きなポーションを占めるものなので、芸術に触れて、人脈を作ることもできる絶好の場所が「パリ」にあるキュリー研究所でした。
ただし、そこを目指すにあたり、誰からの紹介も推薦もない、分野を変えての海外への異動のため、就職先がなくなるリスクもありました。周りからのこれらの理由での反対意見も気にせず、それまでの業績とか実験のスキル、外国での会話力などをアピールして研究員として採用してもらいました。当時は、米国等とは全く異なる、歴史・伝統を重視するフランス独特の学術界がまだ残っていた、おそらく最後の時代、最後の場所の一つであったと思います。
キュリー研究所では、異分野出身のグループで研究に取り組みました。研究室主催者のヴィオヴィ先生は物理化学の大御所で、私は工学のバックグラウンド。日本では若い先生にあたるポジションのカペッロ先生はイタリアの大学で文学部を卒業後、フランスで原子核物理の研究で博士号を取得し、その後に生物物理学の分野に入ったというユニークなキャリアを持ち、頻繁に突飛なアイディアを出してくる方でした。
このような、専門も国籍も違うチームで、オリジナリティの高い目に見える成果を挙げることができたことが、私の人生の大きな糧になっています。
対等に議論ができる環境と
多様なキャリア形成者たち
研究現場は、学生からノーベル賞受賞者までが対等に議論ができる環境でした。立場によらず、廊下や、あるいは一緒に食堂で食事をしながら対等に議論を交わすことができる。逆に言うと、議論できない人はいる意味がないとみなされるという非常に厳しい環境でした。そして、複数の分野を移動するのは当たり前、2つ以上の職業を並行して従事する人も結構多いという事実を目の当たりにしました。これまでの日本社会ではなかなか難しいことではあるかもしれませんが、今後はそういうキャリアを歩まれる方、人生を送る方も徐々に増えてくるのではないかと思っております。
若い方々には、今後のキャリアを考える際、海外のこういった状況を頭の片隅に入れていただければ幸いです。
日本の中の沖縄は、世界の中の日本
「日本の沖縄は日本の縮図」。沖縄学の父と言われる伊波普猷学士の言葉です。
私は歴史学も国際政治学も全くの素人ですが、複数の外国で働いた沖縄人として、次のように解釈してみました。
日本の中の沖縄の立場は、欧米諸国が支配する世界の中の日本の縮図である。
唯一歴史を共有した期間が短い島国である。
「アジア(日本)の研究者は、自分の文化的背景とScienceとの間でConflict(確執)を経験する。何故ならScienceは西洋で生まれたものであるから」※江崎玲於奈博士 (ノーベル物理学賞受賞者)
アジア(日本)人が(西欧諸国中心の)世界で直面するこのようなConflictを、沖縄人も日本本土で仕事をする際に少なからず経験したと聞いています。
これらは中央との様々な面での格差、相違、違いが大きな要因であったと考えられます。
時代は変わり、現在はグローバルの時代です。IT技術等の進展や社会インフラの整備で、地方、離島等に住む人々にも様々な機会やチャンスがもたらされ、格差は縮小しています。
但し、識者は次の言葉を残しています。
「変化し続けることは人類にとって必要不可欠だが、速すぎる変化は大変危険である」※武満徹 (作曲家)
「にが世」から「あま世」
「地球上で帝国主義が終わりを告げる時、沖縄人はにが世から解放されてあま世を楽しみ、十分にその個性を生かして世界の文化に貢献できる」。沖縄の廃藩置県から戦後までの大変苦しい時代を「にが世(にがゆー)」と呼び、「あま世(あまゆー)」が来ることを夢見た伊波普猷学士晩年の有名な言葉です。
様々な問題は残っていても、現在はひょっとしたら束の間の「あま世」なのかもしれません。
グローバルからVUCAの時代
近年、VUCA(変化が激しく、先行きが見えにくく、複雑で、曖昧)という言葉をよく耳にするようになってきました。グローバルからVUCAの時代に向かって、社会変化の速度がますます速くなっております。
一方で昨今の世界情勢は、世界、日本、沖縄いずれにとっても、大変不安定な時代を迎えてしまったといっても過言ではないでしょう。新しいものをたくさん学ぶことばかり求められているような時代にこそ、自身のアイデンティティが重要になります。
今からを生きる沖縄の皆さまへ
今からを生きる沖縄の皆様へは、ぜひご自身のアイデンティティを見直し、世界で活躍しながらそれを拠りどころにしていただきたいと思っております。皆様の今後のご活躍を楽しみにしております。
ご清聴ありがとうございました。
【速報】2024年度ロッキーチャレンジ賞授賞式ならびに受賞記念講演会は2024年11月1日に琉球大学にて開催されました。
新田英之博士・受賞の言葉(要旨)
このたびの表彰、まことに身に余る栄誉でございます。
これまでご支援いただいた恩師、同僚、友人、親族、そして様々な機会に応援の言葉をいただいた多くの沖縄の方々に支えられての結果であると私は感じております。
改めて仲村巖チャレンジ基金関係者及びこれまでご支援いただいた多くの方々にこの場を借りて感謝申し上げます。
※ 新田博士の講話内容要旨、公式プロモーションビデオ等につきましては、今後追記していきます。
来たる11月1日(金)、琉球大学 全保連ステーション(大学会館)3階を会場としてロッキーチャレンジ賞授賞式を開催します。授賞式に続き、第22回琉大未来共創フォーラムにおいて新田英之博士による講話が行われます。詳細は以下をご参照ください。
2024年(第15回)ロッキーチャレンジ賞 授賞式
2024年11月1日まで
※ 下記フライヤー画像をクリックいただくと、琉大未来共創フォーラム申込ページが開きます
会場へのアクセスは以下のURLよりご確認ください。
琉大未来共創フォーラムに係る問合せ先
琉球大学 総合企画戦略部 地域連携推進課 地域連携推進係
TEL:098-895-8019
FAX:098-895-8185
E-mail:chikiren@acs.u-ryukyu.ac.jp
ロッキーチャレンジ賞PRビデオ公式チャンネル(YouTube)
https://www.youtube.com/@user-jq2ti8uo6b
仲村巌チャレンジ基金では「2024年ロッキーチャレンジ賞」を株式会社三菱総合研究所 先進技術センター 主席研究員/博士(工学)新田 英之(あらた ひでゆき)氏に贈呈することといたしましたのでお知らせいたします。
「ロッキーチャレンジ賞」は「外界志向」「志」「チャレンジ精神」の点で、沖縄の若い人材の目標となる個人、または、グループを賞賛し、その活動を応援するため、賞金100万円と表彰楯を贈呈致します。
新田英之氏は、沖縄県那覇市出身で、大学院生時代から半導体チップとバイオの融合領域を自ら開拓し、博士号を取得。日仏米3カ国で新しい分野に挑戦し、成果を挙げた工学博士です。幼少期は現琉球大学名誉教授の父がハーバード大赴任に伴いボストンで過ごし、中学からは県外で過ごすなど、外界の環境を吸収するだけでなく外界より沖縄を俯瞰するようになったとのことです。
◯ 研究内容
東京大学(日本)やハーバード大学(米国)では半導体チップとバイオの学際新領域、キュリー研究所(フランス)では一分子生物学の研究に従事。その後、AI・量子などの戦略技術、科学技術イノベーション政策にも関わる。
〇 主な社外活動実績
リンダウ(バイエルン州ドイツ)・ノーベル賞受賞者会議(生医学賞分野)選考委員(2021年、2023年)
文部科学省 科学技術・学術政策研究所 科学技術予測センター 専門調査員(2014年~2020年)
当基金では、新田英之氏の常に世界トップレベルの環境で積極果敢に新分野に挑み、成果を出し続ける「外界志向」と「チャレンジ精神」、そして早くから沖縄を離れて学び研究に携わる中で強く持っている沖縄への想いと「志」が、ロッキーチャレンジ賞の趣旨にふさわしいものと考え2024年ロッキーチャレンジ賞を贈呈することに決定いたしました。
同氏の体現する「外界志向」と「志」および「チャレンジ精神」が模範となり、あとに続く沖縄の未来の大器の夢と目標と挑戦が生まれることを期待しております。
本年11月1日(金)に琉球大学を会場としてロッキーチャレンジ賞授賞式が開催され、賞金100万円および受賞記念楯が贈呈されます。授賞式に続き、琉大未来共創フォーラムにおいて新田英之氏による講話が行われます。その様子は後日、琉球大学地域連携推進機構のYouTubeチャンネル内にて公開予定となっております。
仲村巌チャレンジ基金 代表 仲村巖